冬の旅人 - 皆川博子

ロシア革命前後のお話。一枚の絵に魅せられた少女、タマーラは、聖像画を勉強するために日本からロシアへ移る。そこから皇帝一家と周りの者が処刑されるまでの、タマーラの波乱万丈な人生を描いている。

序盤からタマーラが理不尽な仕打ちを受け、精神が非常に不安定になり、幻覚まで見るようになった。現状や未来の事を考えると、生きるのを諦めるのも無理はない環境で生き続けたタマーラは、本当に強い。

「死の泉」や「伯林蝋人形館」も史実に基づいたものだけど、史実の描写よりも幻想世界の描写が強かった。「冬の旅人」は史実描写の割合が強く、主人公であるタマーラとロシア史が密接に関わってくるので、タマーラが愛した皇帝一家の処刑前は読むのが辛かった。

なぜ、生まれる。なぜ、生きる。問うても決して答はでない。おそらく無数の人が同じ問いをもち、寂寥に苛まれ、しかし、問おうと問うまいと、死ぬまで生きつづけることに変わりはないから、無視し、忘れる。

タマーラのモデルは、山下りんというイコン画家。