ノスタルギガンテス - 寮 美千子

ぼくは、なんてことをしてしまったんだろう。木はキップルとともに、音のない世界にいる。幹にからみついた蔦の葉も、そのままだ。そこだけが、永遠に一瞬の夏。

"木の神殿"には素晴らしい力があった。少年神「櫂」が落とした一滴により公園の木は神殿へと変わり、神殿の力は様々なガラクタを引きつけた。人々の注目を集めることになった神殿は「ノスタルギガンテス」と名付けられ、名前を得ることで神殿はゆっくりと力を失ってゆく……というお話。
木の神殿は、秘密基地みたいなもので、子供にしか分からない魅力、名付けられることで失ってしまった力があった。櫂だけの秘密基地に大人たちは干渉し、神殿の魅力は失れる。壊れた駅も木の神殿と同じ、子供にしか分からないもので、神殿の魅力が分からなくなるのと同時に壊れた駅も見えなくなってしまった。
時の流れを早く感じるのは子供でなくなった証拠だ。琥珀の中は時が止まっていて、そんな琥珀の中の虫が嫌いだという櫂は、大人になりたかったのかもしれない。
でも大人たちは神殿の香りを嗅ぎつけ、死体ごっこをしたりと、子供に戻ろうとしている。そんな大人たちは馬鹿馬鹿しい上に、神殿の力を衰えさせようとする。大人になんてなりたくない。
気がつけば、時が短く感じられるようになってしまってるけど、今思えば、夏休みが永遠に続くのではないかと感じていた時代は確かにあった。その感覚の遷移の中で、大人になっていることを敏感に感じている櫂の悲痛の叫びが聞こえた。